WoW等覚え書き

World of Warcraftに関するメモなど

World of Warcraft: Battle for Azeroth レビュー [WoW BfA]

 

Battle for Azeroth プレイ雑感

2018年8月14日のローンチからほぼ2週間が経ち、ようやく僕もAlliance/Horde両サイドで各1キャラクターずつレベリング(Lv120カンスト)を終え、現時点での主要コンテンツにもすべて触れることができたので、感想めいたことを記録しておこうと思います。

シナリオ面:両陣営ストーリーラインの分離

今回、Alliance/Hordeそれぞれの陣営に所属するプレーヤーは、まったく独立したストーリーラインをたどることになります。そもそも、プレーヤーが降り立つ新大陸がそれぞれ別個に用意されています。(AllianceはKul’Tiras、HordeはZandalar)

ここまでの徹底分離が行われたのはWoWにとっては初の試みです(WoW最初期(いわゆるVanilla時代)以来初と言った方が正確かもしれません。Vanilla時代においては、Alliance/Hordeそれぞれの陣営のクエストラインは基本的に独立しており、徹底分離されていました)。

Horde側のキャラクターをプレイするのと、Alliance側のキャラクターをプレイするのとでまったく異なる体験を楽しめるという意味で、今作は非常にボリュームのある内容となっています。もはや、WoWプレーヤーは各陣営それぞれにキャラクターを作成して遊ぶことをブリザードが公式に推奨していると言える程の作りです。

この試みがどれほどまでに徹底されているかというのは、各陣営の導入クエストを比べてみればよく分かります。

Horde側導入ストーリー

Horde側プレーヤーがはじめに与えられる任務はStormwindへの極秘潜入です。目的は、捕虜として囚われているZandalari帝国の王女Talanji一行を救出奪還すること。

王女Talanjiは祖国Zandalari帝国の危機を打開するためHordeの力を借りようとして渡海したところをAllianceによって捕らえられたのですが、Horde側もまた、Allianceとの全面戦争に備えてZandalari帝国の海洋軍事力を味方につけようとして、王女Talanjiを救出すべき要人とみなしていたのです。

救出作戦は成功し、プレーヤー一行は船をかっさらいStormwind港からZandalar大陸に向けて出航。Allianceの艦隊の追撃は、王女Talanjiが召喚したloa(wild godsのトロール版)によって阻まれます。その後、反撃に迎え出たZandalari帝国の艦隊の砲撃により、Allianceの艦隊が派手に壊滅するムービーが流れます。

王女とともにZandalarに上陸するプレーヤー達。今回の冒険はこうして始まります。 

Alliance側導入ストーリー

Alliance側プレーヤーはまずはじめに、Anduin国王の口から、今しがたHordeによる要人奪取事件があったことを知らされます。

もちろんAlliance側のプレーヤーにとっては、Hordeの事情や意図などはまったく不明なので詳細は分からず、せいぜい「なにやら捕虜を奪われたらしい」という情報が得られる程度です。

さらに追撃に向かったAllianceの艦隊が壊滅したことも告げられるものの、なぜ一隻の船を取り逃がした挙句、こちらの艦隊が壊滅させられたのか不明のままです。
生存者による証言という形でかろうじてムービーが流れますが、ここで流れるムービーはHorde側で流れるムービーとは別のもの(あるいはその一部)にすぎず、事件の全貌は明らかにされないままです。

Horde側とAlliance側で共通のムービーを決して流さないという、この演出がまさに今回の「徹底分離」の試みを象徴していると思いました。

要するに、Alliance側プレーヤーの視点と、Horde側プレーヤーの視点は厳格に分け隔てられていて、互いに対立陣営の事情をうかがい知ることができないようになっているので、両陣営のキャラクターをそれぞれプレイして初めて、物語の全貌が見えてくるという作りです。

Alliance側プレーヤーはその後、Hordeとの戦争に不可欠な海軍力を得るため、海洋国家Kul TirasへとJaina Proudmooreとともに渡ります。

しかしJainaの母Katherineが国家元首を務めるKul Tirasから見ればJaina Proudmooreは「国家反逆者」であり、プレーヤーはJainaとともに投獄されてしまいます。

(Jainaがなぜ祖国から反逆者呼ばわりされ実の母からも勘当されているのか、バックグラウンドのストーリーを知らない人にとってはちんぷんかんぷんですが、大まかに言えば、JainaはかつてThrallやRexxarらHorde陣営のOrcたちと個人的親交を深め信頼関係を築いていたため、Orcに対するレイシスト的偏見に満ちた「古い」考えの父Daelinと対立する結果になりました。これが、直接ではないにせよ、父の死の原因の一つとなったともいえ、Jainaとしては父母と祖国に対する罪責感に囚われ続けて来たのでした。同様に世間も、Jainaを父と祖国を裏切ってHordeに寝返った反逆者とみなして来ました。)

プレーヤーは、元海賊のFlynn Fairwindや、Bolvar Fordragonの娘であるTaeliaら新サイドキャラクターたちの助けを借りて脱獄を果たし、ここから新大陸での冒険が始まります。

補完し合うストーリーライン

AllianceとHorde、それぞれのファクションは別々の大陸で別々のストーリーラインをたどるとはいえ、互いに干渉がないわけではありません。

War Campaign(出征)という一連のミッションが用意されており、このミッションを通じて各陣営のプレーヤーは、対立する敵陣営の大陸へと少数精鋭部隊で進出し、足場(footholds)を築くことができます。

要するに、敵の大陸で冒険することも可能なのです。しかし当然ながら、敵陣営専用のクエストは受けられないため、エリアの背景となるストーリーラインに関しては知り得ないため、全く未知の世界をさまようほかなく、緊張感もあればそれゆえの興奮もあります。

これに関しては、シニア・ナラティブデザイナーのSteve Danuser氏がForbesのインタビュー記事で、まさにそれが狙いだと意図を明かしていました。War Campaignによってプレーヤーたちは両方の世界を目撃・体験することができるが、それは異なる視点(different perspectives)にもとづくものになるだろう、と。

双方のストーリーラインは、異なる視点を通じて、世界に迫る危機=倒すべき巨敵の存在を浮かび上がらせていきます。二つのストーリーラインは互いに補完し合いながら最終的には収斂していくかのようです。

Alliance側では女王Azsharaの影が、Horde側ではG'huunの影が。それらに通底するのは、Old Godsの存在です。

ちなみにG'huunはオリジナルのOld Godsではなく、人工的に作り出された(=アーティフィシャル/artificial)Old Godsという設定になっているようです。パンテオンがOld Godsを封印するための実験をした時に意図せずして生み出された存在とのこと。

 各ストーリーラインの要約については改めて別記事で書きたいと思います。

シナリオに対する批判大炎上とその後

Battle for Azerothでは、ここ近年ずっと続いていたAllianceとHordeの和平関係(共通の巨敵に立ち向かうための戦略的な和平)に完全に終止符が打たれたわけですが、ローンチ前のプリパッチの段階で発表された、現ウォーチーフであるシルヴァナス率いるHordeによる先制的侵攻によりNight Elfの首都と世界樹Teldrassilが完全に破壊され炎上してしまう展開には、あまりにも物語的に無理筋が過ぎるという印象を多くの人が抱いたようで、かなり批判を浴びていました。

例えば、WoWのLore解説実況界の重鎮Nobbel87氏に至っては、

...I don't agree with the story direction that we're taking right now and I think this is one of the most disappointing moments in lore that I've experienced so far...

(大意)このストーリーの方向性にはまったく同意できないし、WoWの物語設定(lore)を今まで追いかけてきて、これほどまでに失望を味わったことは数少ない。

Nobbel Explains/ Reacts to Warbringer: Sylvanas 'Burning of Teldrassil"(2018/07/31のYoutube動画)より

と手厳しく批判していましたし、僕もその通りだと思いました。

そもそもシルヴァナスが先制攻撃を仕掛けるに至る動機・論理の説明があまりにも不十分です。

建前としてシルヴァナスが言うには、新しく発見されたアゼライト(Azerite)という謎の鉱石が「世界を変える」ほどの力を秘めており、この資源が万が一Allianceの手に渡り軍事利用された場合にはHordeは間違いなく滅びるのだと。

Hordeを守るためには先手を打ってAllianceを滅ぼすしかないというわけです。

この建前とやらがあまりにもリアリティを欠いているのが問題で、シルヴァナスが言うような差し迫った危機など、客観的には存在しないわけです。

Allianceのリーダー格であるStormwind国王Anduinは平和狂と揶揄されるほどの平和主義者ですし、例えばHordeのTauren族の現リーダーであるBaine Bloodhoofとの間で政治的立場を超えて個人的に文通を交わしていることでも知られるほど、Anduin国王はHordeの面々と親交が深いので、アゼライト資源を巡ってAllianceがHordeに侵攻を仕掛けるとは考えにくいわけです。あのAnduinが、すでに開けている対話の道をなげうってまで戦争という手段に訴えるとは考えにくいです。

さらにシルヴァナスの主観を考えてみても、彼女にはそこまで踏み切る動機があるようには思えません。

例えばGoblin族のリーダーであるJastor Gallywixのような、カネがすべてという資本主義的精神の体現者であれば、アゼライトを利用した軍需産業で利益を独占するために戦争を煽って仕掛けるという分かりやすい動機の説明はありうるのですが(実際、シルヴァナスに対してアゼライトを持ち込んだのは彼ですし、彼は当然ながらHordeの存続よりもカネが優先という立場の者なのは明らかです)、シルヴァナスの場合、そうした世俗的な動機も欠落しているし、彼女は本当は何がやりたいのかがまったく見えてこないのです。因縁の復讐対象である元Lich KingのArthusも倒された今、彼女が一体何を大義として抱いているのかがよく分からないのが正直なところです。

で、肝心なのはその後の展開です。世界樹が炎上して戦争が勃発してしまったのはもう仕方ないとして、その後のシナリオはどうなっているかというと、なかなか面白くなって来ました。カギを握るのは、大方の予想通り、Orc族の現リーダーであるVarok Saurfangです。彼をめぐるシナリオ展開から目が離せなくなって来ました。

Battle for Azerothのメッセージ性ーSaurfangとCyrus